岸優太を哲学したい

映画オタクが岸くん沼にはまるとこんなことを考えますの典型

「ラ・ラ・ランド」

古き良きミュージカル好きの私、MGM全盛期こそ世界の高度経済成長期! と思っている私が、とにもかくにもわくわくしながら観られました。これは文句なしの傑作。

 

出だし、快晴のハイウェイでの一曲「Another day of sun」。Overtureなのにめっちゃいい。「ウエストサイド物語」や「ロシュフォールの恋人たち」を思い出させるような街中での群衆ダンス。ただただ楽しくさせてくれるこのオープニングは、この先のミュージカル映画としての期待を容易に高めてくれるし、L.A.が舞台であることを観ている人に植え付けてくれる効果もある。というか長回しがすごすぎる。どこで切ってるんだろうか。

からの二曲目、「Someone in the crowd」。これもすごくわくわくさせてくれる一曲。カラフルポップな部屋のなかで、気落ちしているミアのか細い歌声。そこからたどり着く大サビまでの振り幅の広さが一曲まるっととにかく楽しい。このシーンも「ウエストサイド物語」をオマージュした女の子の可愛らしいシーンが盛り込まれている。そんなミアの部屋の壁には大きくイングリッド・バーグマンの美しい横顔が貼られていて、そこから目が離せない。

ミュージカルってだいたい古き良き時代のテイストで、それを現代に置き換えるとどうもB級になってしまうというか、逆に安っぽくなってしまう気がする。デパルマのヒッチ愛なんて、尊敬に値するけれどもまさにそんな感じ。本末転倒。

でもこの作品においてその点が違和感なく現代と古き良き雰囲気とでうまく融合できているのは、色の使い方がうまいからじゃないかなと思う。
Overture、ミアの部屋、月明かりのしたのダンスシーンでさえも、少し現実場馴れしながらもリアルな風景に溶け込んでいる絶妙なカラフルさが、そこにミュージカルを持ってきても変に浮くことなく、きれいに馴染ませてくれている。


そう、ミュージカルシーンについて言及するには、すごくよかったんです。文句なしにとにかくよかった。とくにはじめ二曲。その二曲のためだけに、ララランドおかわり(二回)したと言っても過言ではない。
OPの映像のよさ、二曲目のパーティシーンのキラキラ感、桟橋でのセブのソロ(ハットといえばジーン・ケリー!)、天文台でのダンス(あの宙吊りにもアナログ感があるところがまた◎)

でも、話が進むにつれてミュージカル演出よりも当然ストーリーに比重がいってしまうので、こちとらミュージカルみたさに鑑賞している身としては、後半の間延びした展開は正直辟易する。
主軸が「夢を追う男女のラブストーリー」なのでこれを言っては元も子もないのだけれど、前半のポップで弾けたストーリー展開が隠し扉みたいにくるっとひっくり返って、その先がこんなにシビアでシリアスなストーリーになるなんて、やっぱりちょっと悲しい。ミュージカル映画なんだから、悲しい展開ももう少しライトにコミカルに持っていくことはできないんだろうか…と(私の脳内には、拗ねた顔して夜の街灯のそばで石ころを蹴りながら歌うフレッド・アステアジーン・ケリーが見えます)


ただ、あのラストはやっぱりやられましたね。その直前まで悶々としていたので、こんなラスト仕上げてきてくれるなんてさすが期待を裏切らない監督さんだなと思いました。

あの流れはスコセッシの「ニューヨーク・ニューヨーク」にもあったと思います。あの作品のクライマックスも名作ミュージカルたちのオマージュで、15分で魅せる古き良きミュージカルショーそのままという感じだったけれど、こちらは実際のショーではなく脳内ミュージカルなんですよね。
今の時代で実際のミュージカルシーンを入れたところで完全に浮くと思われるので、そのアレンジはいいかなと思いました。

そしてそのまま実際のエンドまで。「The end」の字幕が、完全にオールドムービーそのままでそういうところにあふれでる映画愛や敬愛の念を感じられて素敵だった。これで終わり!誰もなにも文句言うなよ!っていうパスンと竹を割ったような終わりの持っていきかたまでそれでした。


私なんかが楽しむための小ネタは、ふんだんに散りばめられていて満足だった。

今時おらんやろってくらいの水兵さん率とか。「理由なき反抗」の天文台は出てくるし、そのなごりなのかエマ・ストーンはオーディションで真っ赤なライダース着ちゃうし、ディーン様……

そのオーディションでボロクソになったミアが「リアルト」っていう映画館の横を通りかかるんだけど、そのあとミアはセブと約束していたんだよね。それを横目に顔が緩んでいくミアが、ものすごく可愛くて。これからのふたりの関係を期待させてくれる素敵なカットだった。でも、その伏線があってからの関係がこじれた時に通り掛かったときに見えた「リアルト」には閉館の文字。うわわわわ。

あとは映画館で何かのラブストーリーのシーンかと思うほど純粋な、手をつなぐくだり(あそこのミアの登場は「カイロの紫のバラ」をしのぐ名映画館シーンになる! … と、本気で思った)とか。楽しそうに一緒にベッドに寝転んでるとこのやりとりとか。キュンキュンしました。


ところで、色使いが素敵な映画なのでもちろんミアの衣装もずっと素敵でした。カラフルで。ミアの魅力を引き立てるような色で。なんだけど、ラストはまさかのリトルブラックドレス。

今までにない黒の衣装、脳内ミュージカルの再生、このエンディング、という点が合致すれば監督の意図したいところはどことなく伝わってくると思うんですが、じつは脳内ミュージカルのなかでセブとミアが最後にデートしてくれるところも、ミアは同じ黒のドレス着ていたんですよね。それを解釈しようとしたときに、しっくりこなくて少しむずむずしました。


思うところはいろいろあるのだけど、個人的には、いまの時代にこれだけのスケールで古き良きMGMミュージカルを再現してもらえてすごく嬉しかったし楽しめました。
あらゆるシーンで「ここはこの映画かな」「こういうオマージュが含まれているのかな」と想像しながら楽しめて、見応えがあったと思います。