岸優太を哲学したい

映画オタクが岸くん沼にはまるとこんなことを考えますの典型

「グリーンブック」

この映画に見るフランク・キャプラついて。

まずはこの映画は「或る夜の出来事」の友情版といえるんじゃないか、ということ。

どちらが右と言えばどちらかが左と言うし、どちらかが赤と言えばどちらかが青と言う。そんな反りの合わないふたりが8週間の旅をともにする。
お互いの価値観に文句をつけ、怒鳴りあい、苛立ちながらしだいにその価値観を受け入れあっていく。最後にはいつしか、右と言っていたほうが左に、左と言っていたほうが右になったりする。
お互いに認めあっていく流れ。モーテルの夜。ウィットに富んだ会話。これはもう、男女のラブコメではないけれど、男同士の友情バージョンを描いたまさにスクリューボール・コメディですよね。

そして、この映画のラストはクリスマスイブで締められるわけですが、ラストがクリスマスイブの映画って必ずいい映画になることが決まってます(※私調べ)
そしてやっぱりラストがクリスマスとなると頭に浮かぶのが永遠の名作「素晴らしき哉、人生!」であって、やはりこれもまたしかり、孤独と絶望を一身に背負った主人公が、晴れて家族をはじめ周囲のみんなに祝福されてクリスマスを迎えるラストは、なんともあったかいのです。

だからこそ、この作品の最後の最後のラストカットは、トニーとドロレスのキスハグではなく、ドクとドロレスのハグなんですね。何故ならこの映画でいうジョージ・ベイリーは、トニーではなくドクですからね。孤独以外にも待っているものがあると知るドク、人生を再びやり直そうと決意を新たにするジョージに見事重なります。


印象深いシーンはいくつかあるんですが、とくにフライドチキンのくだりはお気に入り。投げ捨ててキョドって終わりなのかと思っていたら、きちんとその先のオチまでつけてくるところが丁寧だしドクの面倒なまでに几帳面な性格が見事に顕れていて面白いですよね。

そんなドクが、心のなかにずっと圧し殺していたもの。白人にも黒人にもなれないじぶんの存在。白人には蔑まれ、黒人には妬まれる。そんな世界で生きてきた彼は、品位と権力で身を守るしかできなかったんだろうな。
彼の神経質なまでの几帳面さと高圧的な態度には最初からあまりいい気がしてなかったんですが、田舎道で労働を強いられる黒人たちの未知なるものを見るような目にさらされた彼のシーンがあってから、見る目が変わりました。
あのシーンはとてもよかったです。

全体的な流れとしては、ヒヤヒヤするような大きなショックやパニックが起こらないわたしの好きなタイプの流れでした。
でもどうしても好きになれないのが、やっぱり男の子を買っちゃったシーンで、わたしの道徳観念の問題なんですが許せないのです。すみません。でもそのくだりを忘れてしまうくらいにはとてもよかったです。

それにしてもヴィゴ・モーテンセンよすぎたな。何故オスカー像逃したんだろう。よっぽど主演男優賞受賞してほしかった。
デタラメで生きてきたならず者だし、友情にアツい熱血漢だし、手紙もまともにかけないウブ少年だし、フライドチキンにがっつく姿は野生の猿、とっさの機転で好機を作る営業マン、それでいておじいちゃんのように核に迫る発言もするし、見てないようでしっかり周囲を警戒してボスを守る敏腕エージェントでもある。
それはどのシーンも間違いなくひとりの男(ヴィゴ・モーテンセン演じるトニー)なのに、すべての顔を使い分けていて「あなたいったいいくつなの!?」「イケメンなの!?クズなおっさんなの!?どっち!?」と言いたくなるくらいの百面相怪人でした。すげぇ。