岸優太を哲学したい

映画オタクが岸くん沼にはまるとこんなことを考えますの典型

きしかい幸福論

まるで誰かのサプライズバースデイでクラッカーを鳴らす瞬間のように、「せーのっ」と声をひそめた岸くんは、少年のようにキラキラした目で周囲を見渡し大きく息を吸い込んだ。


「ハッピー、バースデイ!」


その後方、彼からすれば左後ろに、海ちゃんは立っている。彼の「せーの」に合わせて「ハッピーバースデイ」と口にした。まるで弾けたポップコーンみたいに勢いよくカメラの前に飛び出していく岸くんを、白い歯を見せながら目で追っている。そして、満足そうに戻ってくる岸くんを、よりいっそう優しい表情を浮かべ出迎えた。


これは2019年の岸優太くんのお誕生日に公開された、ファンクラブ動画である。わずか二分と少しの映像に、こんなにも愛らしいきしかいの幸福論が詰まっていようとは。このとき、微笑ましく画面のなかの彼らを眺めていた私たちは、やがてこの平和で愛おしいコンビがメンバーはおろか朝のワイドショー番組すらも巻き込む公式「ビジネス不仲」を生み出そうとは、露ほどにも思わない。



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さて、メンバーたちの「おめでとう!」に出迎えられた岸くんは、感謝を述べながら両手の三本指を立て、にこにこの笑顔で「23歳になりました!」と声高らかに叫んでいる。ここで間髪入れずに海ちゃんは、昔理科の実験でみた砂鉄のようになめらかな動きで岸くんにぴたりと張り付いた。彼の手首を抑え込む。〝僕23歳になりました!(※間違いです)〟という重要なテロップが表示されているにも関わらず、私たちはこのふたりの密着度から目が離せなくなってしまう。


〝操り人形〟だとか、〝羽交い絞め〟だとか、それにふさわしい表現はたくさん浮かびもするが、私が見るに、どうもこれは「一歳児が親の手を取って一生懸命動かそうとしている図」に見えて他ならない(説明が下手くそで申し訳ないけれどこれで伝われば嬉しい)。動かし方も何をしたいかもわからないくせに、大好きな大人の手を自分の意のままに動かそうとする本能的なしぐさ。岸くんがどう動かそうとしていようがおかまいなし、ぐいーっと腕を広げてみたり、片腕をあげてみたり、それで満足そうに白い歯を見せて笑っている。可愛い。


「24でしょ?」とメンバーに口々に指摘され、あっと慌てる岸くんにやっと手を放す海人ぼうや。「はははっ!」と顔を上げて楽しそうな笑い声をあげ、ぽんぽん、と岸くんの身体をたたく。萌え袖で優しく「どん・まい」と励ますリズムでたたくしぐさもまた可愛い。


話すときによくみせる岸くんの癖で、せわしなく動く両手についていけなくなった海人ぼうやは、そこで手首のガードを諦めた。代わりに、二の腕をがっちりホールドすることにしたらしい。挨拶の〆に「お願いします」と岸くんが頭を下げれば、まるで自分の息子のように「お願いします」と続けて頭を下げる。さながら、おままごとで大人相手にママになりたがる五歳児みたいな海ちゃんだ。


やがて、尺が余ってしまい、岸くんが動揺を見せると、目を細めた海ちゃんは、横から覗き込むように岸くんを見つめた。その視線があまりに愛おしいものを見つめる視線だったので、私は胸がいっぱいになった。岸くんをおもちゃに遊ぶ姿は一歳児でもあり五歳児でもあったけれど、なんだかんだ海ちゃんにとって岸くんは、尊敬も愛情も注げる大切な仲間なのだろうな、と思う。


岸くんがファンへのメッセージを口にしだすと、海人ぼうやはきれいな黒目をくるくると回して、彼の言葉を一生懸命咀嚼しようとする。いつものように岸節を発揮して、「ん?」と思えば顔をかわいくしかめたり、微笑ましい言葉にはふふっと頬をゆるめたり。アドリブスピーチ状態の岸くんがアップになると、自然と映り込む両サイドのしょうかいの百面相がとにかく可愛い。


それでも時間が余った岸くんに、海ちゃんは「リーダーとしてのあれいく?抱負とか」とぼうやらしからぬ見事な助け船を出す。しかし、引き出しがなくなり、カメラも忘れて背を向けながらメンバーにフォローを懇願する岸くん。ひとり岸くんの言葉に耳を傾けるも、容赦なくほかのメンバーに切り捨てられるさまを、やっぱり海ちゃんは楽しそうに「はははっ!」と空を見て笑った。


覚悟を決めてカメラに向き直った岸くんの背中に、二度。ぽんぽん、と。今度は「どん・まい」ではなく、「がん・ばれ」と。そのメッセージを手のひらから背中に託し、いつもの柔らかく、さりげない口調で海ちゃんはこう言った。


「岸くんの日なの」


その言葉は小さくて短くて、恐らくテンパっていたであろう岸くんの耳にただしく届いていたかどうかはさだかではない。それでも、彼なりの言葉で懸命に期待に応え、言葉を紡ごうとする岸くんの背中を、海ちゃんは優しく、大切に見守っていた。


そして尺も埋まり、無事に抱負の台詞も決まると、やっと安心した笑顔を見せた岸くん。連動するようにして、海ちゃんが今日一番の弾けるような笑顔を見せた。軌跡を残すようにして「マイバースデイ!」と叫んだ岸くんの後ろ姿に、最後、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


「はははっ!」