岸優太を哲学したい

映画オタクが岸くん沼にはまるとこんなことを考えますの典型

岸優太が知ってる「私らしさ」と秋の幻

朝晩たっぷりと冷やされた、つんけんしたような澄んだ空気のなかに、ぼんやりとしたぬくもりの日差しが降り注ぐ秋の陽気が好きだ。歩き出して向かい風が吹けば晒された肌がひんやりするし、立ち止まって日差しを浴びていると身体はぼーっと熱くなる。


「Koi-wazurai」を聴いた。


koi-wazurai(初回限定盤A)(DVD付)

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  • アーティスト:King & Prince
  • 発売日: 2019/08/28
  • メディア: CD
koi-wazurai(通常盤)

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  • アーティスト:King & Prince
  • 発売日: 2019/08/28
  • メディア: CD


言い訳するわけではないんだけれども、夏の終わりは個人的に忙しかった。それはもう大変に。仕事も、プライベートも。気持ちが常にざわざわしていて、よくあの時期をフラットな状態で乗り越えたなと思い返して自分に恐れおののく。


それもこれもキンプリさんたちがいてくれたおかげ、と言いたいところだけど正直まあそうも言い切れなくて、というのも、気持ちに余裕がないときにはあまりオタクごとに気を向けられない性分なので、率直に言えば「なんできみたちはこんなときに新曲出すの!?こんなにプロモーションするの!?この番宣祭りと雑誌祭りはいったいなに!?!?」という気分ではあった。八つ当たりしていた。本当にすみません。


まあ、そんなひとときもゆるやかに過ぎ、いまやっと心して「Koi-wazurai」に身を落ち着ける時期が来た。
何度も聴いた。リピートして聴いた。



「わたしらしさ」を知っている岸優太、ってかなりしんどくない?



岸くんのパートが何度聴いてもとにかくしんどくて、それこそ「うっ!」とハートを撃ち抜かれたような気分になるのですが、それっていったい何が原因なんだろう、と突き詰めたときにこの歌詞が目に留まったのです。

投げた視線そらすなんて
君らしくない


〝君らしくない〟って岸くん言うけど、じゃあ「わたしらしさ」っていったいなに? 岸くん知ってるの? わたしですらまだ気づいていない「わたしらしさ」というものを、「まあおれは知ってるけどね」と言わんばかりにマウントとってくるその感じ、これってとてつもなくしんどくない?


そもそも〝投げた視線そらすなんて〟と岸くんに歌わせる時点でどうかしてる。オタクを殺しに来てる。あの顔を想像しながらその声を聴き、このフレーズを噛み締めていたらそんなの唐突に恋がはじまるに決まっている。
岸くんに〝視線〟を〝投げ〟るんですよ、お前はどんだけ高飛車だよ、おこがましすぎるんだよ………でもわたしはその視線をそらしてしまう。恥ずかしいからね。岸くんのお顔は尊いから、ずっと見つめていられるわけがないからね。


……〝そらすなんて〟?


そらす、なんて。それってつまり、岸くんはわたしが〝視線〟を〝投げ〟たところも〝そら〟したところも、最初から最後までずっと見ていたってこと? 岸くんが? わたしのことを? わたしは岸くんにずっと見つめられっぱなしだったの?


これってもうほんととてつもなくしんどくない?


さりげなく岸くんを見つめて、やっぱり恥ずかしくなったからってそっぽを向いて。その一部始終を知っている岸くんは、つまり、ずっとわたしのことを見つめていて。そのうえでわたしの行為を〝なんて〟って言う。その副詞はあまりに拗ねがちだし、「ちぇっ」と唇を尖らせる岸くんを思い描いてKoi-wazuraわないはずがないし、そもそも岸くんがそんな些細で麗しいフレーズを発することでその意味の尊さはどんどん増していく。どちらさまですか、岸くんに〝なんて〟の三文字を言わせた方は?


そこでさらに〝君らしくない〟なんて続けるもんだから、わたしはもうその場から立ち上がれないし岸くんのほうなんてとてもじゃないけれど見られなくなっちゃうよね。そっぽ向いたままだよね。お願いだからこっち見ていないでって思うよね。



そこで唐突にわたしの脳裏を掠めゆく「Naughty Girl」


気まぐれ My girl こっち向いて
からかわないで!


いや無理だろ! 見られない! こっち向けるわけがない! からかってない! からかってないけど、見られないんだもん! こんな顔見せられないんだもん! 好きだよ! 岸くん! 好きすぎるんだよお!!!… とわたしは膝からぺたりと崩れ落ち、まるですがるような気分になってしまう。ああ、どうしよう。わたしは路頭に迷った。いったいわたしは何にすがったらいいんだ。


ふと顔をあげた。そして、思わず目を細める。目の前に広がるのは、白く眩しい太陽光だった……
つんとそっぽを向いたような冷たさの空気を、じわじわと照らしてくれる穏やかな秋の日差し。そこにはもう、頭を抱えた紫耀くんも、神宮寺くんも、不安げな海ちゃんも乙女な廉くんもいない、もちろん、「わたしらしさ」のなんたるかを知って気にかけてくれる岸くんなんてもっといない。


秋の幻だ、と思う。夏の終わり、まだ夏が名残惜しい欠片たちが、秋色の日差しの下で気まぐれに見せてくれた幻だったのだ。わたしは目を閉じる。かすかな秋の匂いが鼻を掠めて、ああ、ついに夏は終わってしまったんだな、と妙なセンチメンタル感を覚えた。かすかなもの寂しさに片足を浸したような気分で、わたしは、秋の匂いを鼻いっぱいに吸い込んだ。



よし、「Koi-wazurai」を聴こう。